三徳

三つの徳。/ ①大涅槃に具わる法身・般若・解脱の三徳で、三徳秘密蔵という。一切に具わる真如としての法身と、真理を悟る智恵としての般若と、煩悩の束縛を離れ生死の苦界から脱却した解脱をいう。伊字の三点や摩醯首羅天の三目のように三徳一体とされる。三因仏性によって成就する徳で、正因仏性の果が法身の徳を、了因仏性の果が般若の徳を、縁因仏性の果が解脱の徳を得させる。これを順の三徳という。また、苦を転じて法身の徳を、惑を転じて般若の徳を、業を転じて解脱の徳を得るのを逆の三徳と称する。/ ②仏の三徳としての智徳・断徳・恩徳の三つ。仏が智恵をもって一切をありのままに見通す智徳と、すべての煩悩や惑業を断じ尽くす断徳、そして衆生に恩恵を施す恩徳をいう。/ ③宗祖が釈尊の三徳として示した主・師・親の三つ。主徳は衆生を守護する徳、師徳は衆生を教導する徳、そして親徳は衆生を慈愛する徳をいう。『南条兵衛七郎殿御書』〔13653〕には「我等衆生のためには阿弥陀仏・薬師仏等は主にてはましませども、親と師とにはましまさず。ひとり三徳をかねて恩ふかき仏は釈迦一仏にかぎりたてまつる」と明示されている。また、『開目抄』〔16686〕には「日蓮は日本国の諸人にしうし父母なり」とあり、上行菩薩の自覚を持って妙法を弘宣する日蓮は日本国の衆生にとって三徳を具えた存在であることが明かされている。/ ④食物にある三つの徳。『食物三徳御書』〔26768〕に「食には三の徳あり。一には命をつぎ、二にはいろ(色)をまし、三には力をそう」とあり、生命維持・身体生育・体力増進の三つが示されている。/ ⑤宝珠の三徳で、『三世諸仏総勘文教相廃立』〔27770〕には「珠と光と宝との三徳は只一の珠の徳なるが如し」とあり、相即円融義の説明に用いられている。/ ⑥『小乗大乗分別抄』〔18488〕に見える「雨衆(うず)が三徳」とあるのは、数論外道が仏教の義を盗んで自性に勇・塵・闇の三徳を具えていると主張したことを指す。/ ⇒三徳秘密蔵。

 

日興門流上代事典より転載